vol.1 伊藤多恵のワークショップ

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 かもねぎショットでは、2016年11月と2017年の2月、伊藤多恵さんの振付・構成・演出による連続公演が決定しました。これまでにも増して多彩な出演陣。ここに、さらに若い女性を1名加えたいと希望し、7月31日、久々のワークショップ・オーディションを実施いたしました!
 30度を越す猛暑の中、短い公募期間にもかかわらず、ご応募くださった9名、かもねぎショットの栗栖、井草、そして、今回出演のダンサー・公門美佳さんが集まり、いよいよワークショップがスタートしました。
 オーディションの行方はもちろんですが、興味津々なのは、伊藤さんのワークショップの中身。今回は、「伊藤多恵のワークショップ」をご紹介しようと思います。

N/伊藤さんの久々の演出、というだけでも大興奮ですが、2本連続という夢のような企画。と言っても、「大興奮」や「夢のよう」と感じるのは今のところ、出演者の皆さんと我々企画側だけなのですが…(笑)。
C/はい。早く観客の皆さんにも「大興奮」していただきたいです。
N/オーディション・ワークショップでは、柔軟からやんわり始まるのだなあと思って見ていたら、一気に加速していき驚きました。突然、身体性も想像力も記憶力も試される場になっていましたね。伊藤さんからの指示は早く鋭いから、思考をまとめる時間などなくて、瞬時に頭も体も反応するしかない。表面的なセリフ回しや演技もどきとは無縁の、表現者としてのさまざまな能力が試された2時間半だったなと感じました。
R/オーディション参加者の中には、これはなんだろうって驚かれた方もいたかもしれません。人は日常的にはごくごく当たり前にいくつものことを同時にこなしていますが、舞台にのると、二つのことすらなかなかままならない。台詞をしゃべっているときに、自分がどんな体をしているか自覚しておらず、動き回ったあげくに舞台上のどこにいるのか、どちらを向いているのかも把握できておらず。まず、この「うわあ、できてないぞ」と自覚することが、舞台人としてのスタートだと思うのですが、個人的にもそのことを再認識したワークショップでした。
 伊藤さんのワークショップは、純粋に伊藤さん発信のもので、外国のシステムやメソッドのようなものは一切参考にしていないのですが、舞台に立つ者に、無数の「引き出し」を提示してくれるものだと、いつも思います。

栗栖が心震えた伊藤さんの授業

C/私は、東京に出てくる前にやっていたお芝居に違和感を覚えていて、だから、一度も友達や家族に「観に来て」と言えずにいました。それである時、ようやく私は、「お芝居をやりたいと思って始めたけど、私がやりたいと思っていたお芝居って、これなのか??」と自覚するようになり、「東京に行けば、他のやり方のお芝居があるのかも……」と上京してきたのです。そして、黒テントに入り、伊藤さんの「ボディームーブメント」という授業を初めて受けたとき、「東京に来てよかった」と思いました。
色々な条件の道を歩くという授業でした。まずはリノリウムの実際の床の質感を感じ、確かめながら歩きました。次にそこがジャリ道になり、泥がぬかるんだ道になり、膝まで水がある道になり……それぞれの道を体感しながら歩きます。ジャリの石がどんな感じなのか、足元の滑り具合がどんな感じか、泥の柔らかさは? 水の抵抗は?……色々な感じを体に与えながら歩きました。
私は、それまで体をただ闇雲に動かしていましたから、こんな風に体に色々な条件を与えて動かせるのが楽しくて、こんなことができるのかと興奮しました。さらに、伊藤さんが「自分が今、どんな道を歩いているのかを外側に説明する必要はなくて、ただその状況に体をあてればいいんだよ」というようなことをおっしゃって、「わぁー。そんな表現方法があるんだ」と目からウロコが落ちました。今、思い出しても心震える授業でした。

高見がハマった作業

R/かれこれ四半世紀前になるかもしれませんが……伊藤さんのワークショップを受け続けていたころがありました。中でも記憶に残っているのは、ざっくり言うと、「自分が創作した“動き”を、実演して見せずに、言葉だけで人に伝える」という作業です。これが相当難しい。例えば、三人に「嬉しそうにジャンプする」と伝えたとします。でも「ジャンプ」の高さは三者三様だし、ましてや「嬉しそうに」なんて無数にある。つまり、何も伝えてないのと同じなわけです。と気がついたら、自分の“動き”を改めて自覚するところからやり直さなければなりません。つま先が床から何センチ離れているのか、ひざの角度は何度なのか、そのとき右手はどこにあり、左手は何をしているのか、肩は、首は……。こんなことはダンサーならアッと言う間にできるのだろうなあと思いながら、たった5秒ほどの動きを伝えるのに、1時間も2時間もかかりました。でも、なんだかハマって、夢中で分析したような気がします。そして、この「自覚」を自覚できるようになると、私のヘンテコリンな動きであっても、ほぼ同じように何回でもヘンテコリンを繰り返せる。もちろん、ただ繰り返せればよいというものでもありませんが(笑)。

N/伊藤さんとの時間は、ひとりひとりが財産のように持っていて話は尽きないと思いますが、今回のオーディションも無事に終わり、ご出演いただく1名が決定しました。
R/ヒトクセもフタクセもあるベテラン勢と合流して、9月からいよいよ楽しみな稽古が始まります。伊藤さんの演出と出演者たちの稽古風景については、またご紹介できたらと思いますが、読んで楽しんでいただいたら、次はやはり、作品をご覧いただきたいです!
C/はい。ぜひ、2本とも!  まだ少し先ですが、ご来場をお待ちしてます!

舞台のおもしろさ、表現の可能性について、また次回も興味津々なテーマで探ってまいります。